作家その原風景 短篇小説さすらい抄
作家その原風景 短篇小説さすらい抄
冬鵲房刊 1985年3月15日発行
B6版 定価900円
(現在入手不可)
ここに集めた評論のうち、1〜11は、写真の単行本『作家 その原風景 短篇小説さすらい抄』に収録されたものである。
本書扉より
たとえばここにある十一人の作家達の、どの作品でもいい。最後の一ページを読み終えて、そっと本を閉じれば、私達のお馴染の世界はそこにある。しかし読むといういとなみは、時に不思議なほてりのようなものを残すものだ。人はその時、やはりその本を読み終えたばかりの、もう一人の存在のかたわらにあることを望まないだろうか。
この小さな本は、そうした思いの中にある人にとって、恐らく最も刺激的な伴侶である。ひとたび霧散しひとたび凝固して、私達はよりしたたかなほてりの中に立つことになるだろう。それは、読むということが本来持っていたはずの真摯ないとなみを、私達と筆者とが共有するからにちがいない。これは、そのための引き金に満ち満ちた本である。 冬鵲房
本書「あとがき」より
ここに集められた文章は、最初の一つを除いて兵庫県立星陵高校内の同人誌『貫生』に書いたものである。私はその創刊号に井伏鱒二の
花に嵐のたとえもあるぞ さよならだけが人生だ
という句をもとに一文を草した。それから私は対象を戦後作家に限り、一作家一作品一テーマという原則を立ててそれに従って書いた。私は戦後作家をあてどもなく巡り歩いて、作家の原風景といったものを追い求めた。いま、こうして自分の書いたものを纏めてみると、ほとんどの作家を短篇一作で駆け足で論じていて、十分な挨拶もしていないのに気づく。<さよならだけが人生だ>という井伏流の挨拶を少し取り違えていたのかもしれない。機会があれば再論したいと思う。『貫生』は宮下清一氏を中心にがんばりつづけ四年目で十号に到った。これらの文章は宮下氏や加藤千恵子さんをはじめとする同人諸氏の励ましや支えなくしては書かれなかった。深く感謝したい。さらに「羅生門の闇」を書いた『おにふ』の年長の仲間である尾末奎司氏には、多忙にもかかわらず解説を書いていただいた。また氏をはじめ『おにふ』同人諸氏には執筆中から批評やら激励を受けた。ともども感謝したい。最後に、このような小誌に書いた未熟な文章を見つけ出して本にしてくださった冬鵲房の浅田修一氏、大西匡輔氏にはずいぶんお世話になり、ご迷惑をかけた。心から感謝の気持ちを申し上げたい。
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