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14、ジャイプル(写真上は駱駝の車)(写真中は象のタクシー)(写真下はシティ・パレス)

 ジャイプルの旧市街をピンクシティという。城門を潜ると、赤砂岩のレンガで造られた建物はすべてピンクである。なかなか美しい街並で、街はインドを象徴するようにあらゆるものが混在している。道には牛、ラクダ、リクシャ、オートリクシャのタクシー、バス、乗用車、商店街、バザールには人が集まり、活気にあふれた街である。街の中に「風の宮殿」という奥行きのない、誠に風通しのよい風変わりな建物があり、宮廷の女性たちが街を見物するための別荘のごときものであるらしい。実際よりも写真映りのよい建築である。
 ジャイプル郊外の山上にアンベール城があり、ここは象のタクシーで有名な所である。象にはあまり乗ってみたいとも思わないが、観光名物だから、一度は乗ってみるものらしい。象の背に四角い箱を載せて四人乗りの座席をしつらえてい
る。思ったよりも背が高く、予想以上に乗り心地が悪い。ゆっくり歩いてくれれば、それほどでもないのだろうが、鞭を振り振り象を急がせるので、しっかり掴まっていないと振り落とされそうになる。象はアンベール城の坂道をえっさ、えっさと登って行き、象について売り子たちが下からいろいろな物を売り付ける。なかなか象に跨がって行き来したムガルの王侯の気持ちにはほど遠いものがある。

 アンベール城からジャイプルへ向かうバスへ袋をもった七、八歳くらいの子供が乗り込んでくる。手品をする子供だという。私の席の横に座って私の袖口から、いろんなものを取り出してみせる。やんやの拍手を浴びて彼はバスから降りて行く。彼は無就学児童で、インドでは文盲率は五割を越えている。学校に行かせると、子供は親を捨てるので、親は子供を学校へやりたがらないという。

 藩王ジャイ・シング二世は山上の城を捨てて、平地に都を移してジャイプルと名づけた。ここジャイプルに築いた城を山上の城と区別するためにシティ・パレスと名づけた。ここには藩王が廃止された今もその子孫が住んでいて、莫大な財産を持って実に優雅な生活をしているらしい。インドの貧富の差は天文学的で、旧藩王たちの富は桁違いであるらしい。
 
 夕食時、Wさんから「ガーネットのネックレスの安い店があるから紹介します」と声がかかる。ここジャイプルは宝石の産地とかで、始めに一本千円で現れたガーネットのネックレスが最後には三本千円になって、女たちの話題になっていたのだ。妻が愛想で褒めたのを本気で欲しがっていると思われて声がかかったのである。「二本で千円だけど、大きいものですよ」と言う。こういう付き合いもまた旅の楽しみの一つなので、私たちは誘いを受けることにした。インドのホテルは一歩外へ出ると客引きが寄って来るので、夜は単独では外出しにくい。連れ立ってのショッピングは心強い。すぐホテルの隣の店で、お父さんと長男と次男が店にいた。私たちがお目当てのガーネットのネックレスを買うと、お友達を紹介したので、Wさんがインド人形をプレゼントに貰った。これもインドのあちこちで売りつけられた物だ。四百円で買った人もあるという。次いで私たちもお友達ということになり、同じ人形をプレゼントして貰った。私はお返しをしようとポケットを探してみたが、何もない。妻がボールペンを持っていることを思い出し、それをプレゼントする。Wさんは百円ライターをプレゼントした。同行していたOさん夫妻は買うものを物色していたので、私たちの交歓を知らなかった。買い物を終わったOさんも同じプレゼントを貰ったが、お返しをしなかった。私たちは一家総出でホテルまで送って貰って、旧知のように別れを惜しんだ。私たちはインド人の人なつっこさに触れ、デリーのホテルのボーイから受けた悪印象を訂正した。Oさんはそれからまた店に引き返し、Tシャツを買い、またもネール式のターバンをプレゼントして貰ったが、またもお返しはしなかった。すると、彼らはOさんにボールペンを持っているかと聞き、サインにでも必要かと思ってOさんはいい方のボールペンを渡すと、「これ私にプレゼント」といって取られてしまったという。誠にしたたかな友情とでも言うべきかなと思わず笑ってしまった。

15、終りに
再びデリーに帰り、ソウル経由で帰路に着いた。インドはデリー、アグラ、ジャイプールといういわゆる黄金の三角形(ゴールデントライアングル)を回ったことになる。広大なインドの微小な一角を掠めた程度の旅であった。帰りの飛行機では風邪をひいて喉が痛み、咳などが出て全くくたびれ果てた。ハードな旅程もさることながら、インド北部の半砂漠地帯の乾いた埃っぽい空気が風邪を誘発したらしい。インドもネパールも厳しい環境の中で人々は生きていた。

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